季節の便りをお届けします 多少ずれるのはご愛嬌。
2008.03.09
〈名残の梅〉
別れの季節に梅は咲く。冬の終わりの喜びを、香りと形に込めて咲くこの花の風情に、別れの寂しさは似合わない。似合わないからこそ、ときにそのズレの中に本当のうら寂しさが潜みこむこともある。 卒業を控えた3月のある日のこと、どこからか「花見をしよう」という話が持ち上がった。酔狂な話だと思いつつ、それでもみんな賛成した。桜の頃にはもう集まれないと知っていたからだ。 安酒と肴を買い込み、僕等は勇んで近くの公園に出向いた。ところが肝心の花が見当たらない。ちょうど梅と桃の狭間の時期だったらしい。抜いた刀を簡単にしまえない僕たちは、それでも終わりかけの花をつけた一番大きな木の下で、辺り気にせず花見を敢行した。周りには僕等のような花見客が、それこそ終わりかけの梅のように点々としていた。 僕の知る一番情けない花見にして一番楽しく、また寂しかった花見の話だ。 〈初出「都政新報」1997年3月14日号)
別れの季節に梅は咲く。冬の終わりの喜びを、香りと形に込めて咲くこの花の風情に、別れの寂しさは似合わない。似合わないからこそ、ときにそのズレの中に本当のうら寂しさが潜みこむこともある。 卒業を控えた3月のある日のこと、どこからか「花見をしよう」という話が持ち上がった。酔狂な話だと思いつつ、それでもみんな賛成した。桜の頃にはもう集まれないと知っていたからだ。 安酒と肴を買い込み、僕等は勇んで近くの公園に出向いた。ところが肝心の花が見当たらない。ちょうど梅と桃の狭間の時期だったらしい。抜いた刀を簡単にしまえない僕たちは、それでも終わりかけの花をつけた一番大きな木の下で、辺り気にせず花見を敢行した。周りには僕等のような花見客が、それこそ終わりかけの梅のように点々としていた。 僕の知る一番情けない花見にして一番楽しく、また寂しかった花見の話だ。
〈初出「都政新報」1997年3月14日号)
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