季節の便りをお届けします 多少ずれるのはご愛嬌。
2006.12.14
〈紅葉焼け〉 兄と二人で散歩に出かけたことがあった。 歳の離れた兄と二人きりになれる機会は珍しく、僕の心は少しはずんでいた。内緒で話したいことが色々あったからだ。 大股で歩く兄に、僕は小走りでついて行く。ところが、抱えてたはずの言葉がこういうときに限って何も出てこない。僕らはただ黙々と歩き続け、いつしかその足は町外れの山の方へと向かった。 長い散歩につきあいきれず、そのうち夕日も落ち始めた。肌寒さと心細さで足がつかえ、兄の背中が遠くなる。「もう帰ろう」と言いかけた時、初めて兄は振り返り、林の中を指さして僕に言った。「あれがコガラだ」 たった一言だったが、その一言が聞けただけで、何故だか僕は満ち足りた気分になった。帰り道はその鳥の名を口の中で転がしながら歩いた。小柄な自分のことを言われているようだったが悪い気はしなかった。 鳥の姿は忘れてしまったけれど、その時紅葉越しに見えた夕日の色だけは、今も鮮明に憶えている。 (初出/「都政新報」1996年11月5日号)
〈紅葉焼け〉
兄と二人で散歩に出かけたことがあった。 歳の離れた兄と二人きりになれる機会は珍しく、僕の心は少しはずんでいた。内緒で話したいことが色々あったからだ。 大股で歩く兄に、僕は小走りでついて行く。ところが、抱えてたはずの言葉がこういうときに限って何も出てこない。僕らはただ黙々と歩き続け、いつしかその足は町外れの山の方へと向かった。 長い散歩につきあいきれず、そのうち夕日も落ち始めた。肌寒さと心細さで足がつかえ、兄の背中が遠くなる。「もう帰ろう」と言いかけた時、初めて兄は振り返り、林の中を指さして僕に言った。「あれがコガラだ」 たった一言だったが、その一言が聞けただけで、何故だか僕は満ち足りた気分になった。帰り道はその鳥の名を口の中で転がしながら歩いた。小柄な自分のことを言われているようだったが悪い気はしなかった。 鳥の姿は忘れてしまったけれど、その時紅葉越しに見えた夕日の色だけは、今も鮮明に憶えている。
(初出/「都政新報」1996年11月5日号)
※このホームページに掲載の画像・文章等のすべてのコンテンツの無断複製、無断使用、商用利用等を禁じます。 すべての著作権はきりえや(高木亮)に帰属します。 Copyright (C)2001~2006(Kirieya) Ryo Takagi all rights reserved