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2006.03.15

〈春一番〉

朝からひどく風が吹く。

あおられて、目当てのゴミ箱から5メートルも離れた場所に着地したカラスは、ばつの悪さと、何かが変わったことを同時に感じる。

数日続いたぐずついた天気にすっかりくさっていた、干されっぱなしの洗濯物は期待に袖を膨らませ、久しぶりに手すりに吊るされた高所恐怖症の敷き布団は、足下を浮かせる風に、気が気でない。

突風が吹く。竿竹から離れたフリースの上着は、突然叶った空を飛ぶ夢をかみしめる間もなく、五階下の芝生にまっすぐ着地する。

開店したての珈琲屋のできたての看板が、出された途端に倒されて、とんだデビューになったと嘆く。

各地で猛威をふるった春一番は、最後に川べりで休憩するハトの足場を大きく揺らし去っていく。
驚いたハトは、せっかくのばしていた首をふたたび羽毛のマフラーの中に沈め、ひと月前のポーズにもどってしまう。
春が来たというのに。

(画:2001年3月/文:2006年3月)



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