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季節の便りをお届けします
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2006.07.26

〈入道雲の空〉

 思えば随分「親友」を使い捨てにしてきたような気がする。
 そのときどきには確かにそう呼べる友人がいたはずなのだが、今も連絡がとれている者となると数少ない。
 「一生関係が続く友こそが親友だ」という考えに異論はないが、ふり返ってはじめて「親友」だったと思い当たることだってある。さよならしたあとで、どれだけそのひとのことが好きだったかを思い知るようにー

 遠い町に引っ越す前の日、僕はある友達の家に遊びに行った。そんな日に逢いに行くぐらいだから、親しい友達だったことには間違いない。けれども不思議と彼と幼稚園ですごした日々というのが思い出せない。憶えてるのはたった一日。忘れられない一日だけだ。

 妖怪ごっこと称しお互いの体にクレヨンで目玉を描き合い、風呂場に並ばされ一緒に全身を洗われた。いつまでも彼が手を振っているような気がして、迎えにきた母の自転車の背に揺られながら何度も振り返り、もと来た道を見つめていた。

 思えば彼が僕にとってはじめての「親友」だったのかもしれない。
 見上げれば入道雲が、高く高くのびていた。

(初出/「都政新報」1997年9月2日号)



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