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季節の便りをお届けします
多少ずれるのはご愛嬌。


2006.05.25

〈雨あがり(命びろい)〉

 しばらく前まで水道検針のアルバイトをしていた。毎日よその家の裏などにお邪魔し、地面を見つめて歩いた。生活の為だけに選んだ仕事で、その意味での辛さは勿論あったが、毎日出会う地面を通して感じる細かな季節の変化や、小さな発見は僕を慰めた。
 雨上がりのある日、水たまりから直立する草の先にしがみつくダンゴムシを見つけた。水に埋もれたメーター内の大惨事を、その日いくつも見てきた僕は、昨晩彼の身におこったであろう生き残りをかけた戦いのドラマを想った。
 この絵は僕にしては珍しく実際にあった風景をそのまま描いたものになる。
 ところで日々の発見は目に映るものだけに限らず、地面の近くには様々な匂いもあふれていた。花の香り、土の匂い。説明はできないが、何十年ぶりに出会った匂いもあった。「大人になると感受性が鈍くなる」などとはよく言われることだが、我々は背が伸びたことにより、感覚を刺激するものにあふれた地面際の世界から、単純に遠ざかってしまっただけなのかもしれない。そう思い、今でも時々しゃがんでみる
。 
(画/2001年3月、文/2004年4月)



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