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季節の便りをお届けします
多少ずれるのはご愛嬌。


2007.02.19

〈風邪の日〉

 風邪の日、父母の寝室で寝かされることが嬉しかった。母はいつもより優しかった。
 風邪の日、昨日冷凍庫の中にしまった、小さな雪だるまのことが気がかりだった。
 風邪の日、高熱のときはいつも同じ夢にうなされた。切れそうなほど細い糸の上で僕はいつも綱渡りをするのだ。
 風邪の日、僕が寝ている間に知らないことが学校で増えていくのが恐かった。
 風邪の日、見慣れているはずの天井の木目がサメの顔に見えてきて、布団を頭までかぶった。

 風邪の日、理由を作らず学校を休めるのでほっとした。
 風邪の日、独り暮らしの寂しさが身に沁みた。助けてくれそうな友人もいるにはいたが、意固地に自分で治した。気弱なときに世話してもらったりしたら、そのままそのひとを好きになってしまいそうで恐かった。

 蜜柑が、食べたかった。

〈初出/「都政新報」1997年2月21日号〉



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