季節の便りをお届けします 多少ずれるのはご愛嬌。
2007.06.01
〈うつむく坊主〉
衣替えの季節になった。 あわせて昔は散髪もしたが、当時は髪型を考えようにも中学男子は皆、五分刈りと決められていた。僕にとっては中学生になるすなわち「坊主頭になる」ことで、そのただ一点のため中学に上がるのがいやでいやでしかたがなかった。髪の中に「禿げ」をかくしていたのだ。 転んだ、ぶつけた、「禿げ」の出来る原因は人それぞれだろうが、僕のは二歳ぐらいの時ビニールの怪獣と格闘しながら縁側から落ちた名誉の負傷のなごりらしい。記憶にはないが、直前の証拠写真が何故かある。ともあれ青白い頭皮が日に焼けるまでは随分と恥ずかしい思いをした。 「刑期」が明けて高校に入れば、積年の恨みを晴らすがごとく、しばらくは伸びるがままに放っておいた。本当は元の姿に戻りたかったのだが、かつての素直な栗毛はどこへやら、生えてきたのは人並みに屈託を持った高校生に相応しい、手強い癖毛の髪だった。 〈初出「都政新報」/1996年6月11日号〉
衣替えの季節になった。 あわせて昔は散髪もしたが、当時は髪型を考えようにも中学男子は皆、五分刈りと決められていた。僕にとっては中学生になるすなわち「坊主頭になる」ことで、そのただ一点のため中学に上がるのがいやでいやでしかたがなかった。髪の中に「禿げ」をかくしていたのだ。 転んだ、ぶつけた、「禿げ」の出来る原因は人それぞれだろうが、僕のは二歳ぐらいの時ビニールの怪獣と格闘しながら縁側から落ちた名誉の負傷のなごりらしい。記憶にはないが、直前の証拠写真が何故かある。ともあれ青白い頭皮が日に焼けるまでは随分と恥ずかしい思いをした。 「刑期」が明けて高校に入れば、積年の恨みを晴らすがごとく、しばらくは伸びるがままに放っておいた。本当は元の姿に戻りたかったのだが、かつての素直な栗毛はどこへやら、生えてきたのは人並みに屈託を持った高校生に相応しい、手強い癖毛の髪だった。
〈初出「都政新報」/1996年6月11日号〉
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