雪の朝 外に出る
チッソクした地面に風穴を開け
ぼくは歩く
靴跡を避ければ河原へ出る
先客は鳥
そして歩幅の広い犬
犬、走ったか
ニクキュウ、湯気ふいたか
この地に踏み出す人類の
はじめの一歩で ぼくはすべった
気がつけばどこを向いても、何をしようにも先人の足跡ばかりの世代に生まれていた。
いままで僕が踏んだ地面の中に、人類が1度も足を乗せていない場所などあっただろうか。
遥かへ飛び立つ冒険家になれない以上、僕は今日も見慣れた地面の隙間を探し、もがく。
雪は、そんな僕に確かな足跡をくれる。たとえだれかが踏んだ上でも、僕もちゃんと地面に立っていることを教えてくれる。ただその確認がしたくて、僕は今夜も雪を待つ。
(初出/「都政新報」1998年3月10日号)