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季節の便りをお届けします
多少ずれるのはご愛嬌。


2007.06.28

〈あじさい模様〉

 雨の日の下校中のこと。歩道橋の上で僕はクラスの友人達とバッタリ出会った。当時少し流行っていた「つば落とし」をやっていたらしい。その場でしばらく雑談していると、突然見知らぬ大人がすごい剣幕で駆け上がってきた。
 つばでフロントガラスを汚されたその大人は、僕ひとりを残しておそらくはすぐ下に停めてある自分の車まで彼らを連れ去った。もちろん一味じゃなかった僕が行く必要などどこにもなかったのだが、そんな理屈以前に僕は恐ろしくて身動きがとれなかったのだ。
 再び動きだせるまでのとてつもなく永い時間、何を思って僕は過ごしたのだろうか。思い出せるのは、眼下に連なる色とりどりの傘の群れが紫陽花のように見えたことぐらいだ。
 結局、自分達のつばを給食袋で拭かされて友人達は放免された。叱られてなお楽しそうな彼らをよそに、割に合わないうしろめたさが僕に残った。
 僕は消えてしまいたかった。歩道橋から見たあの紫陽花の一部となって。

〈初出/「都政新報」1997年7月22日号〉



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