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2006.04.15

〈ツバメの頃〉

 合唱団には三年入っていたが、何故か途中でやめてしまった。理由は思い出せないが、ツバメ一家の一年を感動的に歌い上げた課題曲の仰々しさが少し恥ずかしかったことだけは憶えている。
 合唱団の中に飛び抜けて歌のうまい子がいて、僕はその子が好きだった。やめた後も話は出来るさとその時はタカをくくっていたのだが、まもなく彼女は転校してしまった。感動からはほど遠いあっけない別れで、言えなかった言葉だけが残された。
 ケンカ別れした友達がいた。理由はつまらないことだった。入院したとき聞き見舞いに行ったときも、お互い「うん」とか「ああ」とかしか言わなかった。それからしばらくして「亡くなった」という知らせを受けた。言わなきゃならない言葉を持ち逃げされた気分だった。
 僕から離れていった人達が、ツバメのように帰ってこないのは、旅立った先がここより楽しいからだと信じたい。僕にできるのは、言えなかった大事な言葉が埃を被ってしまわないよう、せいぜい努力することだけだ。
(初出「都政新報」1997.05.23)



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