「手も足も出さない」 (ても あしも ださない)
〈解説〉 カメよいじめて悪かった。
画・解説/高木亮(きりえや)
「ほんとうに反省してる。おまえがいないとダメなんだ。もう二度としないから。やさしい男に変わるから。たのむから出て来ておくれ」 引き取ったカメののろさに業を煮やし一度手をあげてしまった太郎が、手のひらを返したように和解に精を出している。二束三文で餓鬼どもから買い取った、今は甲羅だけになったカメが太郎には金の卵に見える。きっとめしでも与えれば機嫌を直し、俺をあのきらびやかな異界へと連れて行ってくれるだろう。 ほくそえむ太郎はまだ知らない。歩くカメと泳ぐカメが違うことを。 本気になったカメの歩みが思いがけず早いということも、おそらく太郎はまだ知らない。
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